近年、「リテールメディア」が小売業界で話題になっています。海外で急速に伸びているリテールメディアですが、日本でも検討・導入を進めている企業が多く、すでに複数の事例も出てきています。
本記事では、「リテールメディアとは何なのか?」を国内事例とともにご紹介します。
リテールメディアとは?
リテールメディアとは、小売業界においてデジタル技術を活用して顧客との関係を強化し、購買体験を向上させるための戦略的なアプローチです。これは、従来の商品の提供だけではなく、情報、エンターテイメント、教育などを提供することで、顧客の興味を引き、ブランドとの結びつきを深めるものです。
こうしたアプローチは数年前から始まりましたが、購買に直結するユーザーへのダイレクトな訴求が可能な広告媒体として海外での成功事例も増え、国内においても現在多くの小売りチェーンでの検討、導入が進んでいます。
従来の小売り事業の利益率がそれほど高くないことに対し、リテールメディアを活用した広告事業の利益率が高いこともあり、業界では新たな収益源としての期待も高まっています。
リテールメディアの特徴
リテールメディアは、従来の広告やプロモーション手法とは異なり、コンテンツを通じて商品やサービスの魅力を引き立て顧客との接点を増やすことを目指します。そのため、小売事業者が持つお客様との接点を通じて得られる情報を活用して、広告主がターゲット層に広告配信することができるようにすることがリテールメディアの仕組みとして重要になってきます。
これまでのPOSレジですと、顧客との接点は購入の瞬間に限られていましたが、自社アプリなどの接点を持つことで、より顧客との接点も増えて顧客の状態が分かるようになります。その接点を通して得たお客様データを蓄積・分析して自社のマーケティング活動に活かし、さらにその売場に商品を卸しているメーカーが売場やお客さま向けのアプリやサイネージを通してお客様との接点を得ることができるようになります。これらの接点を小売がメーカーに販売することが新たな収益機会の創出に繋がるわけです。
POSレジだけの状態で分かること | 自社アプリやオウンドメディアがある持てる接点と分かる顧客の状態 |
国内リテールメディアの具体例
それでは、ここから具体的な事例を通じて、国内のリテールメディアの取り組み事例を見てみましょう。
トライアルのリテールメディア事例
福岡を拠点に展開する株式会社トライアルカンパニーは「レジカート」にサイネージ(デジタル表示装置)を導入しています。これにより、トライアルグループは下記のように顧客エンゲージメントと情報提供の効果を向上させています。
1. パーソナライズされた情報提供
カートにサイネージを備え、お客さまがご自身のプリペイドカードのバーコードをスキャンすることで、顧客のショッピング体験がよりパーソナライズされたものになります。サイネージは顧客の購買履歴や嗜好をもとに、特定の商品の情報やおすすめ商品、割引情報などを提供することができます。これにより、顧客は自身の関心に合った情報を受け取ることができ、購買意欲を刺激されるでしょう。例えばトライアルと日本ハムは、電子看板に流す動画広告のパターンの研究や、レシピ提案がリピートを誘う効果を検証を行う*などしています。
*参照元:日経クロストレンド
2. インストアナビゲーション
サイネージを活用して店内の案内や商品の位置情報を提供することで、顧客はスムーズに目的の商品を見つけることができます。特に大規模なスーパーマーケットなどでは、顧客が迷うことなく買い物を楽しむための支援が重要です。
3. インタラクティブなコンテンツ提供
サイネージを通じて、顧客に対話的なコンテンツやエンターテイメントを提供することが可能です。クイズやキャンペーンへの参加、商品情報の詳細確認など、顧客がサイネージを通じて店内で楽しみながら情報を収集することができます。
4. リアルタイム情報の提供
特売情報や在庫状況などのリアルタイム情報をサイネージで提供することで、顧客は最新の情報を素早く把握できます。これにより、顧客は需要が高い商品を逃すことなく選ぶことができます。
5. デジタルマーケティング戦略の強化
サイネージを利用することで、トライアルグループはデジタルマーケティング戦略をより効果的に展開できます。顧客の行動データを分析し、マーケティング活動を最適化するためのデータ収集が行えるほか、特定のキャンペーンやプロモーションをリアルタイムで実施できるメリットがあります。
このように、カートにサイネージを導入することで、トライアルカンパニーはリテールメディアの視点から顧客エンゲージメントを強化し、顧客体験の向上とブランドの価値向上を図っていると言えます。
楽天市場のリテールメディア事例
楽天市場は日本国内でリテールメディアとして大きな成功を収めた一事例です。リテールメディアを通じて、主に下記の点を実現しています。
1. 優れたプラットフォームと多様なカテゴリー
楽天市場は、多岐にわたる商品カテゴリーを網羅したプラットフォームを提供しています。これにより、顧客はさまざまなニーズに合わせて商品を探すことができ、一つのサイトで幅広い商品を購入できる利便性が提供されています。この幅広い選択肢は、顧客の満足度を向上させる要因となっています。
2. 楽天ポイントプログラムと顧客ロイヤルティ
楽天市場は、独自のポイントプログラムである「楽天スーパーポイント」を展開しており、顧客は購入時にポイントを貯めることができます。このプログラムは顧客のロイヤルティを高め、リピート購買を促進しています。ポイントの利用範囲が広く、楽天グループ内のさまざまなサービスで利用できるため、顧客は多様な体験を通じてポイントを活用できます。
3. 優れたパートナーシップ戦略
楽天市場は、他の企業との連携や提携に注力しています。これにより、大手企業やブランドとのコラボレーション、楽天ポイントの利用拡大などが実現しています。パートナーシップ戦略は、楽天市場のプラットフォームをより魅力的にし、顧客に対する付加価値を高めています。
4. データドリブンな戦略とパーソナライゼーション
楽天市場は、顧客の行動データを活用してターゲティングされたプロモーションや広告を展開しています。顧客の購買履歴や閲覧履歴などをもとに、個別に合わせた提案をすることで、顧客エンゲージメントを向上させています。このデータドリブンなアプローチは、顧客にとって魅力的な体験を提供することに寄与しています。
このように楽天市場は、幅広い商品カテゴリー、独自のポイントプログラム、パートナーシップ戦略、データドリブンなアプローチなどを組み合わせて、日本国内でリテールメディアとして成功を収めています。顧客のニーズに合わせた戦略や多様な提携、顧客ロイヤルティの向上などが、楽天市場の成功の要因と言えるでしょう。今後も顧客体験の向上と新たな戦略展開に期待が寄せられます。
今回は国内に限って紹介していますが、アメリカではAmazonやWalmart、中国では淘宝網などがリテールメディアとして圧倒的に進んでいます。海外のOMO事例にご興味がある方はApp Unityによる「OMO大全」を御覧ください。
最後に:リテールメディアの成功のために必要なこと
ここまでリテールメディアの成功の事例などを紹介してきましたが、リテールメディアを成功させるためには顧客を理解するための顧客基盤の構築と、どのチャネルでも共通して利用できる会員IDが不可欠となります。顧客ID統合は、異なるチャネルから得られた情報を一元化し、個々の顧客に対する包括的な理解を提供します。これにより、パーソナライズされたサービスや提案、シームレスな体験が可能となり、顧客エンゲージメントを向上させる土台が築かれます。顧客基盤は、この一元化された情報を活用して顧客ロイヤルティの向上や効果的なマーケティング戦略の展開に寄与します。
もしリテールメディア戦略の構築に関してご興味がありましたら、ぜひ我々App Unityにご相談いただければ幸いです。豊富な経験と専門知識を持つチームが、お客様のニーズに合わせた最適な戦略を提供いたします。お気軽にお問い合わせいただき、新たな成功への一歩を共に歩んでいくことを楽しみにしております。
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執筆者プロフィール
水野正和
株式会社フィードフォース App Unity マーケティング 兼 事業開発責任者
2006年にイオン株式会社に入社。戦略部配属、電子マネー「WAON」の立ち上げに参画。翌年に事業企画プロジェクトチームにて「イオンネットスーパー」の創業メンバーとなり物流、オペレーション設計、品質管理基準の設計を担当。2013年より株式会社プロトコーポレーションにてグーネットやアフターマーケットの新規事業のPMやアライアンスを担当。楽天市場内に「グーネットモール」を立上げ、Rakuten Shop of the Yearを受賞。2018年末からはレシピ動画サービス「クラシル」を運営するdely株式会社のコマース事業の立ち上げに参画し、PB「クラシルミールキット」をはじめ、Instacartモデルの「クラシルデリバリー」など複数の新規事業を構築。その際に出会ったShopifyに魅了され「多くのマーチャントが本業であるコマースに集中できる環境を作りたい」という想いで国内環境に適合したShopifyアプリを提供する企業アライアンス「App Unity」に参画。座右の銘は「大黒柱に車をつけよ」。 Twitter