2023年5月24日から27日まで沖縄の残波岬で行われた「Marketing Agenda 2023」にてひときわ注目を集めたセッションがありました。それはサンドラッグによるShopify Plusの導入事例を交えた対談です。サンドラッグが描いた「顧客起点のオムニチャネル戦略」とはどのようなもので、なぜShopifyがその構想に呼応できたのか。対談内容を重要な部分だけを切り取ってお届けします。

※文書で読みやすくするために一部セミナー内容を改編をしております。

オンライン機転の発想が成功への秘訣?

香山克彦(以下、香山) 今日はサンドラッグの田丸さんをお招きして、なぜオンラインの視点で考えると企業の施策だったりとか、戦略が進行しやすくなるか、Shopifyがどのように導くのかっていうところについて深掘りながら進めていければなと思っております。

まずはじめに自己紹介をさせてください。私は2021年11月からShopify Japan株式会社でShopify Plusの営業第一号として入社しました香山と申します。

元々、楽天でキャリアをスタートしました。その前は高校から大学までアメリカに野球留学をしていました。Shopifyで働く中で様々な企業様と商談させていただき、導入のご支援をさせていただく中でサンドラッグの田丸さんもご一緒させていただきました。田丸さん、自己紹介をお願いします。

田丸知加(以下、田丸) 株式会社サンドラッグで執行役員をさせていただいております田丸 知加(たまる ちか)と申します。元々アマゾンジャパンになんと16年もおりました。

私がアマゾンジャパンに入った時は商品情報を手入力したり、サイトが1日1回しか更新しないような黎明期に入社をしまして、今の形になるまでカテゴリー横断の多数サービス・業務改革・プロダクトの日本代表として長年やらせていただきました。その後はセブン・アンド・アイ・ホールディングスの親会社の方で、デジタル戦略企画部長としてグループを横断したオムニチャネル等々をさせていただいた後に、当時はウォルマートの子会社であった合同会社西友にジョインして、OMO施策や楽天西友ネットスーパーの新規事業やアナリティクス統括など幅広く担当させていただきました。

サンドラッグに入ったのは1年半前くらいです。会社を大きく成長させるためのデジタル施策の強化ということで、今回Shopifyを採用させていただいたお話をさせていただければなと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

香山 ありがとうございます。サンドラッグさんを知らない人はほとんどいらっしゃらないとは思いますが、本題に入る前にサンドラッグさんの事業とECの位置付けについて教えてください。

田丸 はい、ありがとうございます。ドラッグストアが一番知っていただいていると思いますが、今回のMarketing Agendaのために沖縄に入った時に、ダイレックスというディスカウントストアの横を通ってきたのですが、そうしたディスカウント事業でしたり、サンドラッグというドラッグストア事業、調剤事業など様々な事業を展開させていただいております。

そしていまご覧いただいているスライドは、中期経営計画の資料です。

2026年の売上目標は1兆円で、店舗数は1,750店舗を目指すということを掲げている中で私がジョインさせていただいてECデジタル事業というところは、非常に力を入れて様々な施策をしている段階でございます。

香山 ありがとうございます。それでは田丸さんが小売を成長させるためにオンラインを基軸に考える理由を教えてください。

ありがちなECの立ち位置

田丸 オンラインというとアプリとかウェブやECがございます。そのなかでもECというものが、1つの外付けのチャネルみたいな形になっているような会社さんが、ほとんどだと思います。外付けになってくると、店舗の顧客も統合されていないし、購買情報が統合されない状態で進むことになります。

店舗・オフライン事業とオンライン事業は、実は同じようなことをやっているものの、顧客が分断されていることがありがちなECの状況だと思います。一方でOMO(Online-Merges-with-Offline)という顧客基盤統一の考え方もあります。サンドラッグでは単にECの立て直しではなく、会社全体の経営戦略でオンラインを起点に考えるという方向性で考え推進しています。

香山 具体的に実行されたことを教えてください。

田丸 元々サンドラッグの顧客IDは、オンラインもオフラインも紐づいてはいたのですが、楽天さんに出店したりしてバラバラでした。サンドラッグの顧客IDをShopifyで統合することによって、お客様がオフラインなのか、オンラインなのか、さらにはオンラインの中でもどこから来てるのか、というところを見える化するというところに今回は注力したという形になります。ユニファイド・コマース[※]と言って、販売チャネルの垣根を作らないものを目指させていただきました。

ユニファイド・コマースとは

通常のECとユニファイドコマースの違いとは 作図/App Unity 水野”柾虎”正和
通常のECとユニファイドコマースの違いとは 作図/App Unity 水野”柾虎”正和

要件は決まっている状態で、幾つかの企業さんにお声がけをさせていただいて、見積もりを出していただいたのですが、「スクラッチで作ります。スクラッチで作るとするとフェーズに分けて、フェーズワンが1年半かかります。」みたいな感じの見積もりが出てくるんですね。で、正直それだと私的にはもう遅いです。今回重要視させていただいたのが「スピード感」ですね。スピード感と要件が複雑ですので、柔軟性がいかにあるかというところですね。我々は医薬品も取り扱っております。デジタル化が進んでいるので、すぐ対応しなければいけないというところも出てきますので、将来的にすぐ機能を追加できる拡張性を重要視してShopifyを選びました。

香山 ありがとうございます。元々スクラッチで作っていたECをリニューアルというところから、Shopifyにリプレイスしていただいた形でした。

田丸 そうですね、元々スクラッチで作っていましたので、何か機能を入れるたびにコストとお金、そして時間が非常にかかるっていうところが、やっぱりビジネスとして非常に重いものになっておりました。

香山 先ほどおっしゃっていたように、1年半、2年越しっていうとこでいくと、最初に決めた要件が2年後にはもう必要なかったりとか、すでに時代に合っていなかったりするところがありますよね。今回のShopifyを活用してのプロジェクトはどれくらいのスピードで完了しましたか。

田丸 大体頭の中には要件はできていたので、それをきちんと詳細まで落とし込むのに、2ヶ月とあと開発が6ヶ月ぐらいでした。スタートから終わりまでは8ヶ月ぐらいで構築させました。

香山 スピード感をもっとも発揮できたのが今からご紹介する事業だったと思います。

わずか10日で東京都ドローン・プロジェクトのECをたちあげ

田丸 はい、東京都様のドローン・プロジェクトで、山間部にお住まいの方に医薬品を店舗からドローンでお届けするというプロジェクトに参画をさせていただきました。東京都様のスケジュールが非常にタイトで、結論から申し上げるとサイトを10日で立ち上げました。このサイトはお客様がそのドローンが飛ぶ時間を予約するんですね。予約をする上で、「天気が悪くて今日は中止」みたいなこともあったりするので、柔軟性が必要なサイトなのですが、こうした柔軟性のあるECを作ろうとすると最低でも半年ぐらいかかりますが、Shopifyの外付けのアプリをワンクリックでインストールすると予約機能が入れられるようになっていまして。しかもそのアプリの運用を合わせるっていうよりも、少しカスタマイズできるようになっていたので、非常に我々としては助かりました。

香山 構築はShopifyパートナーさんに依頼されたのでしょうか。

田丸 実は内製(社内)で全て作りました。一部Shopify Japanさん側に教えていただいた部分もあるのですが、100パーセント内製で構築させていただきました。

香山 Marketing Agenda 2023のキーノートでもお話がありましたが、「アイデアを実行に移す」ことがとても大事で、スピードを持って実行することによって、決断の経験値を上げていくところも非常に重要だと思いました。

Shopifyは半年に100以上のアップデートを重ねていて、夏と春に行われるEditionsでの発表も行っています。機能拡張も可能にしていくという中で、Shopifyのアプリを使ったことでアイデアが広がった経験はございますか。

アプリで蓄積したファースト・パーティ・データで出店計画を策定

田丸 はい、そうですね。元々サンドラッグは自社のECサイトと店舗のお客様向けのサイトと分かれておりまして、お客様サイトの方で店舗検索をしたり、店舗のクーポンを貰ったりというようなサイトがございました。今回はそれを統合させていただいたのですが、店舗検索の機能はShopifyのアプリを使って実装させていただきました。店舗検索と言っても、単にサンドラッグのお店がどこにあるのか、営業時間は何時なのかなっていう検索だけではなく、お客さまがどの地域を入れて検索しているのか、どこの店舗のページを見ているのか、お客さまが店舗やネットで何を買った方なのかっていうのが実は全部裏で取れるようになっておりまして。元々お店を探そうとした時に、例えば「◎◎駅の近くにドラッグストアがあるかな」みたいな感じで検索されて、たまたまそのブロックにサンドラッグがあればいいんですけれども、ない場合もございます。そういったところで、「お客様がどこそこのエリアにこうこうニーズがあるんだな」みたいなデータも、実は今回、このアプリによって取れるようになっております。

データと言うとECのデータに意識が行きがちですが、リアル店舗の拡大のための出店計画にも活用できると考えております。出店計画っていうとサード・パーティのデータを使うことが多いかと思いますが、今回はファースト・パーティ・データと言いましょうか、お客様のデータ等々も取れるようになりましたので、ECとリアルの垣根がない世界っていうのが出来上がったのかなっていう風には考えております。実際に新店オープンして、お客さまにちゃんと新しいお店を探されてるかどうかとか、その中にあるクーポンが利用されてるかどうかというようなところも全部取れるようになったので、非常に大きかったかなと思います。

香山 ShopifyアプリでCRMも実装されていらっしゃいますね。

田丸 そうですね、MA(マーケティング・オートメーション)のエリアには入りますが、Brazeさんを採用させていただいています。これまでのMAを実装しようとするとAPI開発っていうのが必要になってきます。それがShopifyの場合は、Brazeさんだったり、Criteoさんは商品とのコネクターがすでに出来上がっているので、Shopify上で3から5クリックぐらいで全部連携ができてしまう。しかもすぐできますので、開発費用や開発時間も全く必要がないという世界観になっておりますね。

香山 ありがとうございます。田丸さんがこれまでの経験を通してShopifyを使われてみて、どういう企業にShopifyを使ってほしいなと思うことなどがあれば教えてください。

田丸 私がいた日本の小売企業も含めて、ベンダーさんとも色々お話をさせていただくのですが、海外の製品ってやっぱり知らないんですよね。Shopifyの名前を出すと「何それ」っていうのが社内で出てきまして。さらに、「Shopifyって中小企業向けのあれだよね」と言われることも多々ありますが、私自身ずっとこうAmazonからキャリアをスタートしていて、小売の中に長くいると日本の課題をヒシヒシと感じますので、Shopifyだとどういうことができるのか、日本の小売全体として知っていただきたいなと思っております。

[Special thanks] サンドラッグ Shopify Plus Marketing Agenda 2023

執筆者プロフィール

水野正和

株式会社フィードフォース App Unity マーケティング 兼 事業開発責任者

2006年にイオン株式会社に入社。戦略部配属、電子マネー「WAON」の立ち上げに参画。翌年に事業企画プロジェクトチームにて「イオンネットスーパー」の創業メンバーとなり物流、オペレーション設計、品質管理基準の設計を担当。2013年より株式会社プロトコーポレーションにてグーネットやアフターマーケットの新規事業のPMやアライアンスを担当。楽天市場内に「グーネットモール」を立上げ、Rakuten Shop of the Yearを受賞。2018年末からはレシピ動画サービス「クラシル」を運営するdely株式会社のコマース事業の立ち上げに参画し、PB「クラシルミールキット」をはじめ、Instacartモデルの「クラシルデリバリー」など複数の新規事業を構築。その際に出会ったShopifyに魅了され「多くのマーチャントが本業であるコマースに集中できる環境を作りたい」という想いで国内環境に適合したShopifyアプリを提供する企業アライアンス「App Unity」に参画。座右の銘は「大黒柱に車をつけよ」。 Twitter