渋谷スクランブル交差点から少し歩いていくと、西武渋谷店の建物の中にオシャレな雰囲気の外観をしたお店が見えてくる。中に入ると、まるで隠れ家のようなその店内には、見たことのない魅力的な商品がズラッと展示されている。
展示されている商品情報はすべてスマートフォンで確認でき、購入したいと思ったらECのようにカートに追加することができる。他の商品を見る際も手ぶらで良い。注文もスマートフォンで行い、お会計を済ませると、梱包された商品を受け取れる。商品は自宅へ発送することも可能。店舗で買うことを悩んだ商品は、後でECで購入することもできる。

2021年にオープンしたCHOOSEBASE SHIBUYAは、メディア型OMO店舗として話題となり、現在もオンラインとオフラインの垣根を超えて、様々なことにチャレンジしながら進化しています。
OMOとは、「オンラインとオフラインを分け隔てず、顧客がどこにいてもデジタルを通して便利だと思えるような購買体験ができる環境を作ること」で、近年日本でも注目されている概念です。顧客がオンラインで買い物をすることが一般的になった今、顧客のLTVや満足度向上のため、さらには、従業員の業務効率を上げるためにも「OMO」を取り入れることはもはや必要不可欠なものとなっています。
今回App Unityでは、CHOOSEBASE SHIBUYAに、なぜ「OMO」に注目したのかと、どのように実現しているのかをインタビューしました。
インタビュイー
CHOOSEBASE Director
伊藤 謙太郎 氏
CHOOSEBASE SHIBUYAについて
— まずは、CHOOSEBASE SHIBUYAについて教えてください。
CHOOSEBASE SHIBUYAは、「新しいお客様と新しいブランドとの出会いの場を作る」をコンセプトにした、新業態のメディア型OMO店舗です。お客様の購入体験のすべてをオンライン起点で考えており、ECで買い物できることはもちろん、店舗でもスマートフォンを使って商品情報を表示したり、決済をしたりし、ECとの在庫連携もしています。
今までの百貨店の枠組みを取り払い、オンラインに徹底的にこだわりながら、新しい取り組みにどんどん挑戦しています。
ニューリテールってなんだろうと考えるとOMOに行き着いた。
— 次に、CHOOSEBASE SHIBUYAを立ち上げた背景を教えてください。
我々は、そごう、西武という2つの百貨店を全国に10店舗展開していますが、なかなか新しいお客様、特に若年層のお客様にご来店いただく機会が少なくなっているなと感じていました。新しい世代にもご来店いただくにはどうしたらいいのかと考えていた際に、ちょうど当時の2〜3年前(2017年ごろ)から、日本でもD2Cというキーワードが盛り上がってきて、気概があれば誰でも新しいブランドを作ることができるといった状況であることに目がいきました。
新しいブランドは様々な想いを持って商品を開発しています。そのようなブランドがもつ新しい価値観と、新しい世代のお客様との出会いの場を作れたらいいのではないかと思い、CHOOSEBASE SHIBUYAが始まっていきました。
—「 新しい価値観との出会い」というコンセプト、とても素敵ですね。出展されているブランドは、店舗を持っていないようなブランドが多いのですか?
はい。基本的には、オンライン起点で始められた新しいブランド様が多いです。そのようなブランド様がどうしたら我々のような館、いわゆるリアルの場に展開しやすいのかをまずは考えていきました。
私自身は、リアルの場に出していくことは意外とコスパがよいのではないかと仮説を持っていました。基本的に、オンラインで販売しているようなブランド様は、スモールスタートで始められることや、SNSなども活用しながらユーザーの声をダイレクトに聞いて商品に反映していけるといったこともあり、オフラインよりオンラインのほうがコスパがよいなと思うんですよね。
でも、進めていくうちに、オンライン広告の単価もどんどん上がっていき、新しいお客様に認知してもらうにはどこかで頭打ちになってくるタイミングがあると思います。そこで、リアル店舗で出展することで、新しいお客様に効率的にブランドを知ってもらえるようになるのではないか? と思っていました。
— 実際ニーズはあったということですか?
そうですね。たまたまイベントで、あるアパレル企業の方とお話しする機会があり、自分の仮説を話してみたところ、賛同してくださって。なので、構想を整理してみて、それをD2Cブランド様に壁打ちさせてもらって、どんどん磨かれていったという感じですね。
— なるほど。オンライン起点の商品をリアル店舗でも見れることは購入者にとって非常に便利で、とてもOMOっぽいなと思います。その他にも、CHOOSEBASE SHIBUYAはOMO型店舗としてデジタルを中心とした設計となっていますが、始めからOMOに着目していたのでしょうか?
実は、最初はあまりOMOに絞って考えていたわけではなく、もともとは「ニューリテール」という言葉を掲げて考えていました。ずっと、新しい小売のあり方ってなんだろうと考えて、調査して、突き詰めていくと、結果的に「OMO」にたどり着いたという感じです。
— おもしろいですね、OMOに至った経緯をもう少し詳しく教えてください。
まずは、百貨店を徹底的に把握しようと勉強してみたところ、オンラインとオフラインが本当に分断しているということがわかりました。当時から、そごう・西武は店舗に加えてオンラインショップも運営していました。でも、顧客情報も在庫情報やオペレーションもほとんど連携されていません。さらには店舗スタッフとオンラインのスタッフのKPIの部分も全然違うんです。
せっかく大きなアセットがあるのにも関わらず、オンラインとオフラインが完全に分断されているのってすごくもったいないし、共通化していったほうがコストも下がるし、何よりお客様にとっても最大限の購入機会を提供できることを考えると、絶対にやっていく必要があるよねと思いました。
そこで、これって「OMO」ということじゃない?というところに落ち着いた感じです。
— たしかに、オンラインで買い物をすることも普通になっている今、新しい小売の形にOMOをとりいれていくことにたどり着くのは自然な感じもします。CHOOSEBASE SHIBUYAではどんなことを実現していったのですか?
まずは、在庫情報の統合です。先程も少し話したように、そもそも百貨店では店舗とECは別々の事業だという前提があり、在庫自体が分断されています。なので、同じブランドさんの同じ商品でも、店舗用とEC用の在庫を分けてマルチテナントをしている館が多いんです。
そうなると、この館は店舗では在庫を持っているにもかかわらず、EC用の在庫は売り切れているからオンラインでは買えませんという状況になるんですよね。これって、館にとってもお客様にとってもかなりの機会損失です。
なので、CHOOSEBASE SHIBUYAでは、店舗とECの在庫を完全に連携しています。こちらは、Shopifyとロジクラ、そして店舗POSはスマレジを使うことで実現しました。
◆ ロジクラの事例:そごう・西武の新業態、メディア型OMOストア「CHOOSEBASE SHIBUYA」の在庫管理をロジクラが担い在庫ズレ0へ。
— お客様としては、オンラインでもオフラインでも買いたいほうで買えることが望ましいですよね。
はい。CHOOSEBASE SHIBUYAでは、店舗とECを別々に管理もするといったことも、どちらかに注力するといったこともしておらず、チャネル(販売経路)が違うだけだと思っています。
ただ、オンライン起点で考えることは大事にしている点です。
OMOは大変。でも、1をして3を生み出せる可能性のある取り組み。
— OMOにチャレンジしてみて、実際どうですか?
やってみて本当に思うのは、OMOってめちゃくちゃ大変ということです。OMOってDXとかデジタル化とかそういう括りだから、いろいろ楽にできるんでしょ? と結構勘違いされている方もいらっしゃるんですが、実は全然逆なんですよね。
たしかに、一人あたりの生産性はとても上がるんですが、普通だったらECのチーム、店舗のチームと別れて在庫も別々に管理しているところを共通化しているので、その分知見も求められるし、見るところも増えるので大変なんです。ただ楽にするための効率化ではなく、1やって1しか生み出せなかったところを、1をして3生み出せる可能性がある、という感じです。
— 1をして3生み出す可能性ですが…。もう少し詳細を教えてください。
先程お話しした、店舗とECの在庫の共通化はまさにそうですよね。1つにすることで見るものは増えるけど、販売機会が最大化されています。また、CHOOSEBASE SHIBUYAは、在庫連携するために店舗を倉庫にもしていて、ECと店舗のオペレーションスタッフも同じにしています。倉庫を別で借りると倉庫代や人件費などその分コストもかかりますが、そこを抑えることができています。
もちろん、1人1人のスタッフはキャッシャー作業も梱包・配送作業などの工数が増えているのですが、商品の知見を持った人がECも店舗もみることができるので、店舗もECも変わらないクオリティで提供することもできます。
— なるほど。1つの仕組みをつくることで、販売機会の最大化、コスト削減、クオリティの担保などができるということですね。
あとは、商品情報をデジタル化する必要があるので、商品を単品管理できることも良い部分かなと思います。実は、百貨店って商品マスタが整っていない領域があったりして、何が売れたかがすぐわからない状況の売り場があったりするんです。在庫を見て5個減っているから5個売れたな、みたいな管理をしています。そのような売り場って、売れ筋商品とかリアルタイムに把握できていないので何が機会ロスになっているかもわからないんですよね。
ただ、CHOOSEBASE SHIBUYAでは、店舗でも商品情報をデジタルで見るようにするなど、すべてオンラインで管理しているため、1つ1つに商品の登録が必要です。そのため、何が何個売れたかしっかり管理できることは、ブランド様にとっても非常に良い点だと思っています。

「ファーストペンギンでありたい」、新たなことに挑戦し続ける伊藤氏が描く今後の展望
— ありがとうございます。最後に今後の展望について教えてください。
今後の展望に関しては、まだ言えるものは少ないのですが…(笑)仕込んでいることはたくさんあります。
— おお、楽しみですね。
1つの選択肢として、マーケットプレイスとの連携に今すごく注目しています。今現在でも、Shopifyの販売チャネルを使って、GoogleやMetaなど各媒体と連携はしているのですが、それをもっと数を増やせるといいと思っています。ブランド様にCHOOSEBASE SHIBUYAに出展すると、ありとあらゆるチャネルで販売することができるという世界線を作れると良いと思っております。
— ちょうど、Shopify Editions Summer’23で「Shopify Marketplace Connect」という機能が発表されました。AmazonやWalmart、Ebayなど世界の主要マーケットプレイスに商品カタログを連携させて出品、管理できるという機能なのですが、今の話を聞いていると非常に相性がよさそうだなと思いました! ぜひ日本初の事例を作っていただきたいですね。
そうですね、個人的に常に「ファーストペンギン」でありたいなと思っています。百貨店から既存の仕組みを一切使わずにCHOOSEBASE SHIBUYAを立ち上げたことも、初めての試みでした。初めてのことって踏み出すことも仕組みを作ることもかなり大変なのですが、それをすることで喜んでくれる人がいて、それが自分にとっても嬉しいことですし大事にしたいことだと思っています。なので、初めてのことをこれからも続けていきたいです。
— 期待しています! 本日はありがとうございました!
まとめ
CHOOSEBASE SHIBUYAが探求しているOMOは、新しい小売の未来そのもので、渋谷のあの店舗を訪れると、ショッピングのあり方がどれほど変わりうるのかを肌で感じることができるでしょう。
新しい小売とは何かを突き詰めるとOMOにたどり着いたという伊藤氏のお話から、オンラインとオフラインの融合が進んでいる現代において、OMOは小売業にとってもはや避けられない取り組みなのかもしれません。
ぜひ、CHOOSEBASE SHIBUYAを参考にOMOをご検討いただければと思います。
寄稿者プロフィール
東口 美睦
株式会社フィードフォース App Unity支援チーム
フィードフォースへ新卒入社し、データフィード管理ツール「dfplus.io」のセールスを担当。その後、App Unity支援チームに参加し、App Unityのマーケティングを担当。YouTubeチャンネルやブログ執筆を行う。