昨今、メーカーや小売などの企業を中心に顧客IDの統合が注目されています。
顧客IDの統合を行うことで、複数のサービスやシステムに分散された顧客データを統合できますが、なぜ顧客IDの統合が注目されているのか把握しておきたいといった方も多いのではないでしょうか。
本記事では、「なぜ顧客IDの統合が必要とされているのか?」「どのような企業が顧客IDを統合して、どのように活用しているのか?」「顧客IDを統合するための方法」についてまとめています。顧客IDの統合を検討されている方やメーカー・小売のご担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
顧客ID統合とは
顧客ID統合とは、企業が顧客向けに提供している複数のサービスの顧客IDを1つのIDとして統合することです。
ブランドごとに提供されているECサイトでそれぞれ保有している複数の顧客IDや、ブランド内で提供しているECサイト・スマホアプリ・実店舗ごとで保有している顧客のIDを1つのIDに統合します。
顧客ID統合が必要となる背景
企業は、スマートフォンやソーシャルメディアの浸透によるスマホアプリやLINE公式アカウントの提供、さらには、新ブランド立ち上げによるブランドごとのECサイトや実店舗の提供により、顧客接点を増やしてきました。
しかし、顧客はサイトごと・チャネルごとにIDを登録する必要があり、ID登録の手間が発生したり、再ログイン時にID/パスワードを忘れてしまうといった課題が発生したりしています。
上記の課題に加えて、以下のような外部環境の変化から、特にメーカーや小売業界を中心に顧客ID統合が注目されています。
- サードパーティクッキーの規制
自社で入手した顧客データ(ファーストパーティデータ)を統合的に蓄積して、マーケティング施策へ活用するニーズが増加している。 - 小売企業による、広告プラットフォーム(リテールメディア)の提供が増加
ウォルマートの広告事業が急成長していることを背景に、小売企業が自社で入手した顧客データを統合して広告事業に活用するニーズが増えている。 - 販売チャネルの多様化・D2Cブランドの台頭
ライフスタイルに合った商品開発や、顧客との密なコミュニケーションに繋げるために、自社で入手した顧客データを統合して活用するニーズが増えている。 - 人口減少
1人あたりの顧客単価および、LTV向上のためにサービスを横断したクロスセルのニーズが増加しており、サービスごとの顧客データ統合のニーズが増えている。
顧客ID統合の企業事例
ここからは、実際に顧客ID統合を実施している小売・メーカーの企業が、どのように顧客IDを活用しているのかをご紹介します。
株式会社セブン&アイ・ホールディングス
株式会社セブン&アイ・ホールディングスでは、2018年6月よりセブン&アイグループ共通7iDの提供を開始し、これまで分散していた顧客データを統合することで、クーポン配信や情報配信などのCRM施策などに活用されてきました。
その結果、7iD移行会員はnanaco継続会員と比較して、購買金額・購買回数・残存率で高い効果をあげています。
引用元:株式会社セブン&アイ・ホールディングス「2019年2月期 決算説明会」
さらに、2023年2月期に発表された決算説明では、「7iDを軸とした小売・金融一体戦略」が発表されており、7iD顧客データを活用したリテールメディアや金融への活用が進んでいます。
引用元:株式会社セブン&アイ・ホールディングス「2022年度 決算説明資料」
味の素株式会社
味の素株式会社では、2022年12月よりAJINOMOTO IDという味の素グループが提供する複数のデジタルサービスを共通で利用できるIDを提供することで顧客IDを統合しています。
AJINOMOTO IDは、以下のような目的で提供されています。
①ID統合による顧客の利便性向上
②顧客の嗜好&ライフスタイルにあわせたグループ横断(D2Cブランド含む)の提案
③将来提供予定のアプリ含めた、オンラインサービス提供による顧客関係強化
顧客IDの統合方法とソリューション
顧客ID統合の方法は大きくわけて2つあります。それぞれ詳細にご紹介します。
CDPを活用した名寄せ
この方法では、顧客データ基盤であるCDP(Customer Data Platform)を使用して、顧客IDを統合します。異なる顧客データから、メールアドレスや電話番号など共通する項目を利用して、一意のIDを発行することで、顧客IDを統合する方法です。
企業は、CDPを活用して統合しますが、このアプローチには、以下のようなメリットとデメリットがあります。
■メリット
①顧客側に統合作業の負担が発生しない
②統合作業が完了した後、統合された顧客データを迅速に活用できる
■デメリット
①統合作業を行うために企業側でコストが発生する
②顧客データごとに取得項目が異なる場合、統合に関連するコストや手間が増加する可能性がある
ソリューションの代表例としては、トレジャーデータ株式会社が提供しているTreasure Data CDPが挙げられます。
CIAMを活用した統合
サイトやシステムを横断して利用できる共通の統合顧客ID基盤を構築し、顧客に新しく共通IDの登録と既存IDの紐づけ作業を行っていただくことで、顧客IDを統合する方法です。このアプローチでは、CIAM(Customer Identity and Access Management)を活用し、顧客自身が新IDの登録と既存IDとの紐づけを行います。
共通のログイン基盤を構築することでID統合を行う場合、以下のようなメリットやデメリットがあります。
■メリット
①企業側に統合のための手間が発生しない。
■デメリット
①顧客側に新IDの登録と既存IDとの紐づけをする作業負担が発生する
②共通のログイン基盤としてはID統合のみとなるためデータ統合にはCDPなどが必要となる
③既存の顧客IDは維持する必要がある
ソリューションの代表例としては、Okta Japan株式会社が提供しているAuth0、NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション株式会社が提供しているSAP Customer Data Cloud、NRIセキュアテクノロジーズ株式会社が提供している、Uni-ID Libraなどが挙げられます。
まとめ
企業が注目する顧客IDの統合が必要となる背景や事例、具体的な統合方法やソリューションについて紹介しました。今回ご紹介した統合方法については、それぞれメリット・デメリットが存在するため、企業側の状況にあったID統合を進める必要があります。
例えば、非アクティブな顧客データ含めた統合が必須であればメールアドレスや電話番号をキーにしてID統合を進める必要がありますし、CDPやログイン基盤の開発が社内調整やコスト的に難しいといった場合は特定のECサイトを親として統合する選択が考えられます。
企業ごとで最適なID統合の方法は異なってきますが、弊社では「IDの共通化・活用」領域でお手伝いできることを増やしており、「ブランド共通IDの提供」「サイト間のポイント共通化」などID統合周りでの課題がございましたら、ぜひ一度お話をお聞かせいただき、実現について一緒に考えさせてください。
寄稿者プロフィール
北林 択哉
株式会社フィードフォース App Unity支援チーム
株式会社フィードフォースへ中途入社後、コンサルティング型広告運用サービス「Feedmatic」でのセールスを経て、「SmartNews」のローカルクーポンのセールスを担当。2021年よりDX支援事業にてShopify定期購買アプリの営業&カスタマーサポートの立ち上げを行いつつ、現在はApp UnityにてShopifyの導入支援を担当しています。